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名古屋高等裁判所 平成9年(行コ)6号 判決 1998年1月28日

愛知県碧南市道場山町四丁目六八番地

控訴人

原田美貴夫

同所

控訴人

原田笑子

同所

控訴人

原田義久

愛知県安城市里町三郎三番地九

控訴人

久野恵子

右四名訴訟代理人弁護士

竹下重人

高木道久

愛知県刈谷市神明町三丁目三四番

被控訴人

刈谷税務署長 小泉治

右指定代理人

渡邉元尋

堀悟

戸刈敏

相良修

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、控訴人らの昭和六〇年分から昭和六二年分までの所得税について、平成元年一月三〇日付けでした各更正(控訴人美貴夫については確定申告額を超える部分。また、同控訴人の昭和六二年分については異義決定により一部取り消された後のもの)及び、控訴人原田笑子、同原田義久、同久野恵子に対する各過少申告加算税賦課決定(控訴人久野恵子については昭和六二年分についてのみ)、控訴人原田美貴男夫に対する各重加算税賦課決定(昭和六二年分については異議決定により一部取り消された後のもの)を、いずれも取り消す。

3  被控訴人が、控訴人らの昭和六三年分の所得税について、平成四年三月一六日付けでした各更正(控訴人原田美貴夫については確定申告額を超える部分)及び、控訴人原田美貴夫に対する重加算税賦課決定、控訴人原田笑子、同原田義久、同久野恵子に対する各過少申告加算税賦課決定を、いずれも取り消す。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人ら

主文と同旨

第二事案の概要

当事者の主張として、次に附加するほか、原判決「事実及び理由」の「第二事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人ら

1  控訴人らが株式の買付又は売付をした際に、控訴人ら名義の取引口座に名義の交錯があるが、これは、手数料及び売買回数の節約のために共同買付をしたり、ごく稀にであるが、控訴人美貴夫が買い付けた株式を他の控訴人らに贈与したりしたためである。しかし、このような異名義取引は、本件係争年間に控訴人らのした株式売買総数約六九五万二〇〇〇株のうち約一七万四〇〇〇株、率にして僅か二・五一パーセントであり、金額からみても同程度の割合となる。回数も四年間で二六回、一人当たり年に一・六回にすぎないのである。このように極く一部の異名義取引や資金の貸借を徒に重要視してすべてを控訴人美貴夫の取引であると認定することはできない。

2  控訴人ら間の資金の融通については、控訴人らは決済日における資金の状況を把握できたから、互いに事前に了解しておき、証券会社からある控訴人の口座の入金を他の控訴人の決済に充ててよいかと連絡があれば、控訴人らはこれを承諾していたし、また、電話を受けた控訴人美貴夫又は同笑子が資金の移動について指示していたのである。

3  原判決は、売買報告書の各メモ書きの書体が似ていると認定しているが、独断である。控訴人らのした極めて多量の取引から数年経過後にこのようなメモ書きを作り上げることは不可能である。異議申立て及び審査請求の調査の際、多数の取引の中から右メモ書きした取引について指示説明することは極めて困難であったから、右資料は無いと答えたが、本件取消訴訟提起後、被控訴人は本件株式取引の中の異名義取引等を取り上げて控訴人美貴夫単独の取引であると強弁するので、控訴人らはメモ書きしてある本件売買報告書を書証として提出したのである。

4  本件処分(一)の処分時の調査の際、係官が確認したのは控訴人笑子の金庫だけであり、他の控訴人らの金庫については調査していないから、控訴人らが手持現金を保有していなかったと断定することはできない。

5  原判決は、控訴人笑子、同義久、同恵子が株式取引を開始した時期やその時の資金源等について本人の供述に不確かな点があると指摘するが、これらは本件係争年度より遥か前のことであり、不確かな点があったとしても些細な事柄である。右控訴人らは、長年に亘って株式取引を繰り返す等して、保有株数を増加させていったのである。

控訴人義久は、一年間で四二〇万円余の給与所得と一〇〇万円強の配当所得の合計五二〇万円強の所得を得ていたうえに、生活費等の負担は全くなかったから、昭和五三年三月一日から同五九年一二月末までの間に合計二〇〇〇万円前後の資金を自己の株取引に投入することは十分に可能であった。また、昭和六二年二月一七日ころに買い付けた明星工業の株式取得代金は控訴人義久の三井銀行刈谷支店における定期預金三〇〇万円を原資としている。なお、乙八四号証の基礎となっている乙七八号証には、買い付けた後に売却したものの売却の記載がないものが二〇〇〇万円位あり、また、右顧客勘定元帳は証券会社が備えるべき法定の帳簿類ではないので、その記載の正確性には大きな疑問がある。さらに、控訴人義久は売り建てた株式を買い戻したり買い建てた株式を転売したりする等して積極的に株式取引を行なっていたから、単純に買付代金総額と売却代金総額とを差引計算して投入資金を算出することはできない。控訴人恵子は、昭和五三年五月末から株式取引を開始しているが、昭和五九年当時において給与所得と配当所得から一一八九万円位の金員を捻出することは十分に可能であった。

6  本件パソコンは、原審証人平井が証言するように、控訴人義久が使用していたものであり、主として控訴人美貴夫が活用していたとの原判決の認定は誤りである。

二  被控訴人

1  控訴人ら主張の異名義取引には、買付について共同買付の事実を示す証拠がないものが少なくないので、その買付についてはそれぞれの名義でなされたものとすれば、それだけ異名義取引の回数は増える。また、共同買付人についての主張の一部が変遷している。

2  控訴人義久及び同恵子について、同人ら名義で株式売買取引のあった証券会社の顧客勘定元帳及び株式債権取引記録(乙七八ないし八三)を基に、各名義ごとの株式取引開始から本件係争年分直前までの間の取引資金の出入りについて調査したところ、控訴人義久は、昭和五三年三月一日から同五九年一二月末までの間に、四〇三四万円余の資金を、控訴人恵子は昭和五九年四月一〇日から同年一二月末までの間に一一八九万円余の資金を投入したことになるが、一般常識に照らし、高校卒業間もない控訴人義久や、給与収入だけの同恵子に、当時これだけの資金繰りをすることは絶対に不可能であるというべきである。なお、乙七八号証はすべての取引が誤りなく記載されているが、仮に、顧客カードには買付取引だけが記載されて売付取引の記載がない株式が存在し、その合計額が二〇〇〇万円位になるとしても、控訴人義久名義の取引口座が一証券会社に限られておらず、他の証券会社の口座による売付取引の存在の可能性があること、あるいは、他の控訴人の名義で売り付けられた可能性があること等を考えれば、特別不自然なこととはいえない。

第三証拠

原審及び当審の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第四争点に対する当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人らの本訴請求はいずれも失当として棄却すべきであると判断するが、その理由は、次に訂正、附加、削除するほか、原判決「第四 争点に対する当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決五二頁五行目の「いる。」の後に行を改め、「控訴人美貴夫は、甲六〇号証の陳述書に、右メモ書きした売買報告書を本件審査請求等の段階で提出しなかった理由をるる記載していたが、その理由は、到底首肯しうるものではなく、信用できない。」を加える。

二  同五三頁五行目の「各原告が」から同七行目の「また、」までを削除し、同七行目の「常時」の後に「手許にそれぞれ百万円単位の」を加える。

三  同五三頁一一行目の「とはいえない。」の後に行を改め、次のとおり加える。

また、原判決別表(一五)のとおり、控訴人美貴夫は同笑子に昭和六〇年一一月一八日ころに支払うべき株式買付残代金六万六〇〇〇円を同年一二月一九日ころに支払い、控訴人義久は、同美貴夫に昭和六〇年四月九日ころに支払うべき株式買付代金二六八万五八八八円を同年七月二五日と同年八月一〇日の二回にわたって支払い、同美貴夫に昭和六一年九月一日ころに支払うべき株式買付代金二一〇万四〇〇〇円を同年一〇月三一日に支払い、同恵子は、同美貴夫に昭和六〇年八月一九日ころに支払うべき株式買付代金一二一万七〇二四円を同年一〇月二六日に支払い、同笑子は、同義久に昭和六一年一二月三日ころに支払うべき株式買付代金一六五万〇五六四円を同月三一日に支払ったと主張しているが、各控訴人が常時手許に二〇〇万ないし三〇〇万円の現金を所持していたのであれば、右各支払が一か月ないし二か月も遅滞するのは不自然である。

四  同五三頁一二行目の「二、三〇〇万円」を「二〇〇万ないし三〇〇万円」に訂正する。

五  同五四頁一三行目の「四三ないし四五」の後に「五八ないし六〇」を加える。

六  同五五頁四行目の「なかったこと」の後に「、各控訴人名義の株式取引口座間における資金の移動は右差引勘定が行なわれる場合にのみ行なわれていたこと、平井は、出金する口座の名義人が控訴人義久や同恵子であっても、同人らに直接その意思を確認したりすることはせず、控訴人らの自宅に行って、同美貴夫又は同笑子との間で差引後の現金の授受をしたこと」を加える。

七  同五五頁四行目の「認められる。」の後に行を改め、次のとおり加える。

(2) 右認定事実によれば、原判決別表(五)、(六)記載の売り付けられた株式の代金は同各表記載の他の株式の買付代金に充当されていると認められるところ、控訴人美貴夫が、同人の子の控訴人恵子や、一〇〇万円の資金があれば株取引に回したいと考えていた控訴人義久(甲五九)から、多数回にわたり多額の金を借用してまでして株の購入をしたものとは考え難く、また、証券会社に株式の買付を依頼する場合、依頼者は当然に買付資金を用意しておかなければならないことを考えると、右代金の充当は、控訴人美貴夫が右売り付けられた株式の売却を予定して他の株式を購入したものと認めるのが相当であり、この認定に反する原審における控訴人らの各供述は信用できない。

八  同五五頁五行目の「(2) また」から同五七頁一〇行目の「る。」までを削除する。

九  同五七頁一一行目の「(四)」を「(三)」に、同五八頁一〇行目の「(五)」を「(四)」に、同行目の「右(一)ないし(四)」を「右(一)ないし(三)」に改める。

一〇  同五九頁一行目の「相当である。」の後に行を改め、次のとおり加える。

5 控訴人らは、共同買付は、特定銘柄の株価の見込みについて複数の控訴人の意見が一致した場合に、証券会社に対して支払う手数料や各控訴人の株式の売買回数の節約を意図して行なっていたと主張し、各控訴人らは原審においてこれに沿う供述をしている。しかし、原判決別表(一)によれば、昭和六〇年の売買回数は、控訴人笑子が三七回、同義久が四一回、同恵子が三八回、同美貴夫が三二回、昭和六一年は、同笑子が三七回、同義久が二六回、同恵子が二八回、同美貴夫が二六回、昭和六二年は、同笑子が四四回、同義久が四二回、同恵子が二八回、同美貴夫が三四回であることが認められ、特に昭和六一年、六二年においては、同恵子の回数は他の控訴人らに比べると少ないから、回数の関係で他の控訴人らの名義で共同貸付けをしてもらう必要はなく、むしろ、自分の名義で回数の多い控訴人笑子らのために共同買付をする方が回数節約の必要性の高い同控訴人らのためになると考えられるのに、控訴人らの平成九年六月二日付準備書面添付の一覧表によれば、控訴人恵子が、他の控訴人らに比べて際立って多くの他の控訴人名義で共同買付してもらったというのであり、これでは、控訴人ら四名がそれぞれ五〇回の回数制限を超えないように回数の節約を目的として共同買付をしたとはいえない。また、共同買付によって節約される手数料の金額についてみても、二人の買付代金の合計額が三〇〇万円未満の場合は、一人当たりの節約効果はわずか一〇〇〇円位であり(弁論の全趣旨)、この程度の金額が、各名義の口座を有する控訴人らに、権利関係を曖昧にする異名義取引をわざわざ行わせる動機となりうるものとは解し難い。また、控訴人笑子は、原審における本人尋問において、共同買付をした場合、手数料を共同買付人がどのような割合で負担していたかについて答えることができなかった。

また、控訴人らは、全体の取引からみれば、異名義取引の回数、株数は僅かであると主張するが、一人の者が昭和六〇年から同六二年までの三年間で二五回にわたり異名義で合計一七万一〇〇〇株もの取引をすれば(前記準備書面添付の一覧表)、その名義の取引全体について真実は右の者が取引をしていたのではないかと疑われるのである。

一一  同五九頁二行目の「5」を「6」に改める。

一二  同六一頁八行目の「各供述」の後に「及び甲五九号証の記載」を加える。

一三  同六一頁九行目の「よると、」の後に「甲五九、六〇号証の各記載は直ちには信用できないものであって、」を加え、同行目の「第2項」を「第1項」に訂正する。

一四  同六四頁一三行目の「知らなかった。」の後に行を改め、次のとおり加える。

(四) 証拠(乙六三、原審における控訴人義久本人)によれば、控訴人義久名義の株式は、昭和五九年末の時点でその評価額が約四八九七万円に達していたことが認められる。

控訴人義久は、昭和五九年以前において、売り建てた株式を買い戻したり買い建てた株式を転売する等して積極的に株式取引をしていたと主張するが、原審における控訴人美貴夫の供述及び控訴人らの平成六年九月七日付準備書面(二〇、二一頁)によれば、控訴人義久は昭和六一年一一月ころまでは信用取引きをする口座を持っていなかったことが認められるから、控訴人義久が昭和五九年以前に信用取引きを積極的に行なっていた旨の主張は採用できない。

そして、控訴人義久が、小遣い程度の貯金と日本電装からの給料を元手に昭和五三年三月から昭和五九年末までの約七年間で右多額の株式を保有することができたかについて、原審における同控訴人本人尋問の結果はその供述内容が具体性に欠けているため直ちには信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、これに、同義久は、自分の日々の生活に必要な資金はすべて同人の給料で賄い、昭和六〇年までに株取引で大儲けしたことがない(甲五九)ことを考慮すると、同義久名義の昭和五九年末の株式は同控訴人の資金により同控訴人が取得したものということは到底できない。

また、証拠(乙三五、五二)によれば、控訴人義久は昭和六二年二月一七日明星工業の株式二万株を単価五一二円で買ったこと、同日同義久の普通預金口座から三〇〇万円が引出されていること、右株式の買付代金は一〇三三万六六八〇円であり、同日同義久の株式取引口座に三〇〇万円が入金となり、右代金の一部に充当されていることが認められるが、右乙三五号証によれば、同日累積投資から入金された七三三万六六八〇円が右株式代金に充当されていることが認められるので、この累積投資が控訴人義久のものであることが立証されない限り、右明星工業の株式二万株が同義久の資金によって購入されたということはできない。

一五  同六五頁一行目の「(四)」を「(五)」に改める。

一六  同六七頁六行目の「できる。」の後に「甲五九号証の記載は、この認定を何ら左右しない。」を加える。

一七  同六七頁七行目の「(五)」を「(六)」に、同六八頁三行目の「(六)」を「(七)」に、同行目の「(一)ないし(五)」を「(一)ないし(六)」に改める。

一八  同七一頁一二行目の「二二、二三については」の後に「(なお、甲二二、二三号証の株価グラフは、その大きさ、ていねいな作成の仕方、銘柄が目立つような書き方、このような作成方法では買付銘柄の選択のために多くの銘柄について同様のグラフを作成することは余程時間的に余裕がないと困難であること等からみて、他人に見せるために後日作成された疑いが強い。)」を加える。

一九  同七二頁四行目の「ことはできない。」の後に行を改め、次のとおり加える。

(七) 「裁定解消売り」や「機関投資家」の言葉の意味を知っていなくても、株式取引により利益を上げることができる(甲五九)が、自己の判断で実際に株式の信用取引きをしたことがある者は、信用取引売買計算報告書(甲二一の七)記載の「支払利息」及び「受取利息」の意味を当然に知っていると考えられるのに、控訴人恵子は、原審の本人尋問において右報告書を見せられても、これの説明が全くできなかった。

二〇  同七二頁五行目の「(七)」を「(八)」に、同行目の「(一)ないし(六)」を「(一)ないし(七)」に改める。

第五総括

よって、控訴人らの本件請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法六七条一項本文、六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺本榮一 裁判官 吉岡浩 裁判官 矢澤敬幸)

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